例えばの話…朝目覚めて、いつもの自分と違うモノになっていたら、どうする?虫になっていた、とか…コレはちょっと、いや、かなり嫌だな。出来れば遠慮したい。猫になっていた…まぁ、コレはコレで困るな。僕は一応、軍を束ねているのだし。 …で、だ。もしも、朝起きて…自分の性別が変わっていたりなんかしたら…普通はどんな反応をするんだろうか…? ● 変化 ● 「…何…?コレ、何の冗談だ…?」 僕は自分の身体を見下ろして、妙に冷静にそんな事を呟いていた。目が覚めて、ふと起き上がってそのままの姿勢で、僕は固まったように動かない…いや、動けなかった。寝間着にしている浴衣の間からは、見慣れぬ…自分には在りえないモノが見える。 「……おかしいな…昨日までは、自分の性別を把握していたつもりなんだけど…」 膨らみなどなかったハズの胸元に、丸みを帯びた柔らかいモノが丘のように二つある。思わず一度浴衣の前を開き、全身を確認して、僕は思わず頬を抓ってみる。…やっぱり、痛い。って事は、コレはつまり逃れようもなく現実で…。 「何で…無いハズのモノがあって、在るハズのモノがなくなってるんだ…」 呆然と、呟く事しか出来なかった。何故なら、僕の身体は…女の子になってしまっていたから。在りえないハズの胸の谷間と、細いワリに柔らかな、女性特有の曲線を描く身体。まるで、自分の身体じゃないみたいだった。 こういう時、やっぱり普通は騒ぐものなのだろうか…けれど、呆然としてしまった僕は騒ぐ事も出来ず、妙に冷静になった頭で、風呂やなんかはどうすればいいんだろうか、とか考えてしまった。我ながら、変だとは思うけれど。 「……。とりあえず、クレオとマッシュに相談してみないと…リーダーがいきなり女になりました、って訳にもいかないだろうし。」 そんな事を呟きながら、僕は着衣を正した。多分、僕は僕なりに、この時混乱していたのだろう。頭の中には、軍の士気に関わるだろうか、とか、皆が知ったらどう思うか、とか笑える程にそんな事ばかり考えていた。まぁ、この先の事を考えたくはなかっただけかも知れないが。 はぁ…と溜息をついて、どうしようか悩んでいると、控え目なノックの音の後にクレオが部屋に入ってきた。どうやら、いつまでも起きて来ない僕を心配したらしい。 「アリア様、起きてらっしゃいます…か…」 ベッドの上の僕とクレオの視線が合い、そのまま彼女の視線が僕の膨らんだ胸元に止まる。…寝起きの時の僕と同じように、クレオもまた固まってしまった。 「えっと…あの、クレオ…?」 「……。坊ちゃん…ですよ、ね…?」 同時に戸惑うような声で、お互いに問いかける。 「うん…。僕は、紛れもなく、アリア・マクドールのハズなんだけど…。どういう訳か、さっき目が覚めたら…その、こうなっていて…」 「目覚めたら……女の子になっていたんですか…?あの…失礼ですが、本当に、坊ちゃんなんですよね?」 「だから…身体は何故かこんなんだけど、僕はアリアなんだってば。」 信じてもらう為に、僕は必死に言葉を紡ぐ。と、ようやく納得はしないまでも、信じてくれたらしい彼女は、やっぱり先程の僕同様、溜息をついて頭を抱えた。 「…どうして、このような事に…」 「それは、僕が一番知りたいよ…。ともかく、今日は戦も会議もない日で良かった。前もって、マッシュに相談する事が出来る。」 「そう、ですね。ともかく、こういう問題は軍師に委ねた方が良さそうです。」 頭が痛くなるようなこの状況を、僕達は軍師に押し付け…じゃない、相談する為、僕はひとまず彼女にマッシュを呼んで来てもらう事にした。 しばらくしてクレオを伴い部屋に現れたマッシュは、どうやら前もって話を聞いていたらしく、僕を見ても固まる事はなかったが、難しい表情で考え込んでしまった。 「……この大切な時期に言う冗談にしては性質が悪いと思いましたが、まさか本当にこのような事になっているとは…」 「いっそ冗談だった方が、まだマシだったかも知れないけどね…。」 二人して奇妙なモノを見る目で僕を見て、そんな事を言ってくれる。はっきり言って、そんな事を言われても困る。別に僕だって、好きでこうなった訳じゃないのだから。 「アリア殿…それで、何かこうなった事に、心当たりはないのですか?突然男が女になったなどという話、聞いた事もありません。何か原因がある筈です。」 「そう言われても…僕にも、何が何やらさっぱりわからないんだよ。別に、昨日は普通に休んだだけで、何か変なモノを食べたり飲んだりした記憶もないし、戦った魔物にも、そんな状態変化をしてくるモノはいないハズだ。」 昨日の記憶を何とか辿りながら、僕は首を傾げる。本当に、僕はどうしてしまったのだろうか。マッシュも言っていたが、男が女に変化する、なんて話は聞いた事もない。 「…魔法や呪いの類という事は?」 「そんなの、僕にわかる訳もないだろう…。少なくとも、僕が知る限りの魔法や呪いの中には、そういうモノはないよ。」 クレオの問いにそう返してから、溜息をつく。これは、魔法使いに聞いてみる必要がありそうだ。 「……。クレオ、ここに…ジーンさんと、それに…ルックも呼んでくれ。」 「しかし…いいんですか?」 「構わない。あの二人は、言いふらすような事はしない人達だし、もしも魔法が原因ならば、話を聞いた方がいい。マッシュも、僕と同じ意見だろう?」 視線をマッシュに投げかければ、彼もまた頷いた。 「この際、仕方ありません。例え話を聞いても、元に戻れるかはわかりませんが、念の為聞いてみた方が良いでしょう。」 「…わかりました。」 クレオとしては、恐らく…これ以上他の人に知られるのは避けたかったのだろうけど。まぁ、それは僕も同じ気持ちではある。それでも、可能性がある以上は、試してみない訳にもいかない。とにかく、二人に話を聞いて、何かわかればいいのだけれど…そう思いながら、僕は祈るような気分で呼んだ者達がやってくるのを待った。 * * * * * * * しばらくして部屋にやってきた二人は、僕を見ても表面的には驚く事はなかった。念の為、クレオはリュウカンにも話を聞いてきてくれたが、やはり病の類には性別が変わってしまうなんてモノはないらしい。僕はまた溜息をついて、自分にわかる限りの事を二人に説明した。 「……そんな訳で、僕にもどういう事なのかわからないんだが…呪いや魔法の類で、こういう効果を持つものはあるだろうか…?」 紋章師と魔法使いは思わず、といった様子で一度顔を見合わせた後、僕に向けてはっきり首を横に振る。…やっぱり、無いのか…。 「…永い事紋章師をしてきたけれど…そんな魔法も呪いも、聞いた事はないわね…」 「僕も、そんなの知らないね。けど、気になる事ならある。」 静かにそう言い放ったルックの視線が、僕の右手に向けられる。気付けば、ジーンさんの視線もそこに留まっていた。右手、というよりは…そこに宿っているモノを見ているのだろうか? 「気になる事…?」 「最近そいつ、やたら力が強くなってるみたいだね。あんたの親しい者の魂取り込んで、力を増してるのさ。」 「…その力に、あなたの精神力が対抗しきれなくなっているようね…真の紋章の力が強すぎるのか…それとも、あなた自身の心に問題があるのか……そこまでは、わからないけれどね…。」 「その両方だろう?…色んなモンを亡くして心は弱るのに、反対にそいつの力は強くなる。何か弊害が出ても、おかしくはないさ。」 さらりと二人に言われた言葉を僕が理解するのに、数秒かかった。少しの沈黙の後、僕は恐る恐る憶測を口にする。 「……つまり、こうなったのも、ソウルイーターのせいだって事か…?」 「さぁ?そこまではっきりとした事は、僕にもわからないけどね。つまり、それ位しか原因が浮かばないって事さ。」 「…言える事は、あなたの精神力がその紋章を超えない限りは、どうにもならない…という事ね。他に原因は考えられないし…」 二人の声に、僅かに同情がこもる。僕は深い溜息と共に、ようやく一つだけ問いかけた。 「……。それって、もしも僕が、ソウルイーターの力を制御出来なければ…一生このまま、って事なのか?」 「そうね…少なくとも、すぐに戻る事はないかも知れないわね…。」 「まぁ、制御出来るようになったからって、戻るとも限らないんだけど。諦めて、今後の人生を女として過ごすってのも、新しい道かもね。」 同情しつつも容赦のない言葉に、僕はただもう一度、深い溜息をついた。 それ以上会話の出来なくなった僕に代わってマッシュが二人を退出させ、静かに僕を見る。彼の目にも、傍に立つクレオの目にも、先の彼らと同じような想いが表れている。 「…とりあえず、すぐに戻る事はないらしい…。二人は、どうするのが良いと思う?」 「とにかく、今は…胸に布でも巻いて、鎧でも着ていれば誤魔化せるのではないかと。こう言ってはなんですが、坊ちゃん…アリア様は、小柄な方でしたから…見た感じだけなら、何とかなるのでは?」 「そうですね…今は皆、戦の方に気をとられて、そこまで気が回らないでしょうし。この事を知っている者が気を付けていれば、それで何とかなるでしょう。」 マッシュにしては、何とも頼りない言葉だったが、確かに、他にどうしようもない。 「……わかった。そうしよう。すまないが、今日はあまり外に出る気にはなれないから、適当に理由をつけておいてくれ。」 そう言って、僕は残った二人も退室させ、僕は窓辺に立つ。眼下に広がる湖の景色を眺めやり、その湖面に映る空を見つめて気持ちを落ち着かせる。 「…こんな事になって、父さんが生きていたら、どんな顔をなさる事か…。」 さすがの父さんでも、狼狽するだろうか。…グレミオだったら、泣き出すかも。テッドなら、爆笑するかも知れないな。そんな事を考えていたら、不思議な事にふ…と笑えてきた。 「オデッサさんだって、女性でリーダーだったんだ。女になったからって、今更放り出す訳にもいかないし…なってしまったモンを気にしてても仕方ないよね。」 呟いて、僕は映った空ではなく、本当の空を見上げた。 どんな姿になろうが、男だろうが女だろうが、僕は僕で、それだけは変わらない。…そう、心の中で思いながら。 ― Fin ― |
ついにやっちゃった、女性化坊です。これまたありえないモンですが、裏はこんなのばっかり収納してますから、友達の生暖かい笑みと、訪問してくださった方の呆れる顔が目に浮かぶようです(苦笑)。ある意味、エロよりも微妙ですね。とりあえず、一回書いてみたかったのです。 でもって、女の子になってしまった理由としては、一応裏設定に書いてある通りです。死の力が強まったせいで、産み育む性別である女性になったのかも知れないし、ソウルイーターと、喰われた人の中で一番坊に執着してる人の願望、かも知れません。そうして、そんなこんなで続いたり続かなかったり。…気が向いたら書くかもなぁ。ちなみに女の子になった彼の胸のサイズはCとDの間くらいです。大きすぎず、といって貧乳でもない感じで。(…んな事までこだわんなくていいから) にしても、うちの小説の中では珍しく、あんまり暗く悩んでたりしなかったので、そういう意味では楽でした。ってか、むしろアホっぽいですね(苦笑)。 |