死ぬ?お前が こんな世界の為に?
―― 俺が 殺す事も 出来なかったのに

世界は お前を使って 生き延びようと言うのか?
―― 俺から 全てを奪い去った 醜い世界が

俺から 最後の光まで 奪おうというのか
―― そんな世界など 滅んでしまえ

…世界が お前を奪い去ろうと言うなら
―― その前に いっそ俺がお前を

殺してやる



― 一章・堕ちる守り手 ―



 隣に眠る愛し子の、鮮やかな焔色の髪をただ優しく撫でながら、ガイは眠れぬ夜を過ごしていた。この夜が明けなければ…いっそ、時が止まってしまえばいい…そう願っても、時はただ残酷に、刻々と過ぎ行く。

 「…ルーク…」

 明日になれば、この愛しい子供は…死を覚悟で、世界に満ちる障気を、世界の中で彼と…もう一人だけにしか使えない、その力で中和するのだ。沢山のレプリカ達の命と共に…世界を、皆を生かす為に。生き残る可能性は限りなく低く、もしも生き残れたとしても…。

 「どうして、お前なんだ……」

 復讐という闇に囚われていた自分に光をくれた子供が、世界に今しも奪われようとしている。家族を、一族を…故郷を奪い去り、更に最後の光まで奪おうとする醜い世界に、眩暈すらしそうな程の憎しみが湧いた。
 ルークが愛しくて、亡くしたくない…そう思いながら、自分を置いて逝こうとする彼に、心の奥底に眠っていた殺意が目覚めそうになる。酷い矛盾だった。愛しいから生きて欲しいのに、愛しいからこそ…世界に奪われる位なら、いっそこの手で殺してやりたい。全てからこの手で解放して、そうしてその傍らで、自分も逝く…そんな事を思ってしまう。

 「……ルーク」

 助けてくれ…あの頃、無意識に救ってくれたように。心が軋んで壊れていく音を、ガイは聞いたような気がした。静かなこの夜の闇の中、静かに静かに壊れていく自分を自覚しながら、彼にはどうにも出来なかった。
 ただ一言、ルークが『死にたくない』と…『生きていたい』と言ってくれたなら、何としてでもそれを叶えたのに。ルークは、何も言わなかった…ただ静かに、隣で眠るだけ。まるで、祭壇に捧げられるのを、怯えながらも待つ生け贄の子羊のように。
 この子供と、共に生きたいと願う事すら、許されないというのか。ならば、やはり愛しい子供をこの手にかけて、共に逝く事しか、願えないのか。

 「…っ!俺、は…何を考えて……」

 理性で必死に考えていた事を打ち消そうとするが、彼の中は既に暗い狂気に侵食され、まるで呪いのように、甘美な死への願いに壊れかけた心が囚われる。今すぐ、隣で眠るルークの首を絞めてしまいそうな程、それは強く…あの呪術が再び自分を操っているかのようだった。けれど今度のそれは…紛れもなく、自分の狂気の声が囁く願望。
 どの道、ルークが死んでしまうと言うのなら…その命を、世界にも、ヴァンにも使わせたくはなかった。誰にも渡さない…この命は、この世に作られたその時から、俺のモノなのだから。
 共に生き、共に死ぬ…それはいつの頃からかガイの心にあった、願い。それは緩やかに歪み、その心を闇へと染めていく。

 「ルークの命は…誰にもやらない…」

 呟き、ゆらりと立ち上がって身支度を整える彼のその瞳は、凍てついた海のように、底の見えない蒼さだった。そうして荷物をまとめ、ふとルークを見つめたガイの瞳が、その時だけ常のように柔らかい光を宿す。

 「…ごめんな、ルーク…けれど、俺には…お前を奪われるなんて、耐えられないんだ…」

 そう囁いて、彼は誰よりも大切な愛し子の唇に自分のそれを重ね、口付ける。そこにどんな想いを込めたのか…誰も知る事はない。夜が明けたその頃には、彼の姿はもう既に、信仰の町から消えていた。


* * *


 「…ガイが、どこにもいない…?」

 隣に居た筈の男の姿は、宿からも町からも忽然と消えていた。誰一人、その姿を見た者はおらず、最後にその姿を見たのは、眠る前のルークで…それ以降は全く目撃されていないという。

 「貴方が最後にガイを見た時、彼の様子はどうでしたか?どこか変わった事は?」
 「どう、って…いつもと、そんな変わんなかったと思うんだけど…。ただ、いつもよりは…哀しそうって言うか…辛そうだったけど……」

 いつもと変わらず…いや、いつも以上に、ガイは優しかった。眠れそうになかった自分を、抱き締めて優しく寝かせてくれたのに…まさか朝になったら消えているなんて、思いもしなかった。

 「ガイ…ルークの選んだ事が辛くって…見てらんなくて、それで…逃げちゃった、のかな…」
 「…そんなっ!…いいえ、彼は…辛い決断をくだしたルークを見捨てるような人ではありませんわ…。」
 「けれど…ルークが生まれてから七年…誰よりずっと傍に居たんでしょう…?きっと…他の誰よりも、苦しかったんじゃないかしら……」

 言い合う女性陣の言葉を黙って聞いていたルークは、流れる重い空気を断ち切るように、宿の扉へと足を向ける。

 「ルーク?」
 「…居ないんなら…いつまでもここに居る訳に、いかないだろ…?ぐずぐずしてたら、アッシュが先に…障気中和しちまうよ」

 力無く笑って、彼は一人宿を出て行き、その後を慌ててアニスとナタリアが追っていく。それを見送って、ティアは何事か考え込んでいる様子のジェイドに視線を向けた。

 「…大佐は、どう思いますか?何故ガイは、よりによって今日…」

 仲間の中で一番年長の男は、ただ深い溜息をつき、血のような瞳を扉の方へと向ける。

 「……今日だからこそ、かも知れませんね」
 「え?」
 「いいえ。とにかく今は、ルークの言う通りです。ガイの事は…後ほど考えましょう。考える材料が足りませんし、今は時間が惜しい」
 「…そう、ですね…わかりました」

 辛そうに、それでも毅然として頷くと、ティアもまた宿を出て行く。その背を見た後、今一度溜息をついたジェイドは、顔を隠すように眼鏡に手をやり、目を伏せた。

 「ガイ…貴方という人は…」

 呟いたその言葉を、仲間達が知る事はなかった。


* * *


 天に近き塔を見上げ、竦みそうになる足を叱咤しながら、ルークは走り出す。いつもなら、自分の状態に気付いて、『大丈夫か?』と声をかけてくれる彼は…今はいない。震える心を叱りつけて、彼は塔の入り口を入った所にある昇降機を見上げた。

 「…まだ、アッシュはきてないみたいだな…」
 「そうね…アルビオール三号機も、着いてなかったようだし…」
 「……アッシュを救って、ルークを殺す為に来たのか?」

 ティアの言葉に被さるように響いた声は、ここには居なかった筈の男の声。

 「ガ、イ…?お前、何で…」

 階段の方からゆっくりと歩み寄ってくるのは、姿を消した筈のガイだった。戸惑ったように呼びかけ、近づくルークに、彼はいつものように優しく微笑んだ。

 「…さぁ…何でだと思う?」
 「ルーク!下がりなさい!!」

 いつの間にか剣を抜いていたガイが、微笑んだままルークに刃を振り下ろすのと、予想していたのか素早く譜術を完成させ、ジェイドがエナジーブラストをガイに放ったのは、ほぼ同時だった。

 「大佐?!」
 「ガイ?!」

 同時に叫んだ声が誰のものだったのか…目の前で起こった事すらも、ルークには認識出来なかった。ただ、目の前の男が斬りかかろうとした瞬間、放たれた譜術を避けて飛び退き、間合いを取ったのが見えただけだった。

 「ハッ、旦那にゃお見通しだったか」
 「…そう思いたくはありませんでしたけれどね…」

 静かに響く二人の声に、のろのろと視線を動かし、ルークは自分より年長の二人の男を見つめる。

 「何…言ってんだよ…二人して、何やって…?」
 「ルーク、この塔の上には行くな。言う事を聞いてくれ…そうすれば、お前を殺さずにすむんだ。」

 にっこりと…優しい笑みを浮かべて、信じられない言葉を吐く。

 「ガイ、あなた…何を言ってますの?!」
 「アッシュがやればいい。そうすれば、お前は生きられる。…俺が、お前の生きられる世界へ連れて行ってやるよ…。だから、俺と一緒においで、ルーク」
 「あなた、まさか…兄さんの考えに同調したの…?!」

 悲鳴のようなティアの声に…『仲間達』の顔を見回し、彼は冷たい笑みを浮かべた。

 「…ルークを奪おうとする世界なんて、滅んでしまえばいい。…ヴァンの計画にのれば、ルークは生きていられる…俺が、そう話をつけた…」
 「なっ…何言ってんの?!ガイ、あんた本気?!」
 「あなた、自分が何を言ってるか、わかってるの?!」

 アニスとティアの声を無視して、ガイはただ自分の愛し子へと目を向ける。

 「ルーク、おいで。馬鹿な事をしなくていい。…お前が障気を中和する必要なんてないんだ。お前に、そんな義理なんて、ない筈だろう?」

 まるで昔のように手を差し伸べる相手を見つめ、ルークは弱々しく首を振り、信じられない、というように半歩下がる。

 「ガ、イ…嘘、だろ…?冗談、だよな…??」
 「貴方の方こそ、馬鹿な真似は止めなさい!ルークを哀しませたいんですか?」

 ジェイドの言葉に、ガイは憎しみを込めた瞳でその場に居るルーク以外の者達を睨みつけた。

 「うるさい!!…ルークを見殺しにするくせに…わかったような事を言うな!…誰にも…世界にも、ヴァンにも…ルークの命は渡さない…」

 その様子に、ジェイドは表情を険しくすると、近くにいたルークとティアに低く言葉を投げかける。

 「…ルーク、ティア、あなた達は、先に塔の最上階まで行きなさい。残りの者達で、彼の足止めをします」
 「し、しかし、大佐……」
 「彼の狙いがルークであり…アッシュが辿り着き、彼が瘴気の中和を行なう事を狙っているのだとしたら、ここで時間を割く事は、彼の思惑通りと言う事になります。…いいですね、ルーク」

 問われて、ルークは何とも言えない表情で頷く。

 「……わかった」
 「ルーク、お前がそんな事をやらなくていいんだよ。一緒に行こう」
 「そうして…また俺に、人形になれっていうのか?ガイ…。どうしてだよ…何でそんな事言うんだよ…っ!俺が、守りたいのは…あの空だけじゃないのに…」

 彼は唇を噛んで一度目を伏せると、真っ直ぐに顔を上げ、一番大切な存在の…その蒼穹のような瞳を見つめた。

 「……俺は、行けないよ…きっと、障気を中和しないで、アッシュに任せたら…俺は、一生俺を許せないから」
 「…そう、か…なら、仕方ないな……」

 昏い色に染まった瞳をルークに向け、間合いを詰めようとしたガイのすぐ目の前で大地の力が集約し、譜術による鋭く尖った巨大な岩が、貫くように突き上がる。

 「行きなさい、ルーク!」
 「くそっ…ルーク…!!」
 「行かせませんわ!」

 横に跳んで譜術を避け、再びルークへと向かおうとしたガイのその足元の床に矢が刺さる。巨大化したトクナガが視界を遮り、その隙にティアが、止まってしまいそうなルークの手を引いて昇降機へと乗り込み、扉を閉める。起動音と共に、緩やかに昇り始める昇降機を見上げ、悔しげに顔を歪ませたガイは、残った者達を睨みつける。

 「…よくも邪魔をしてくれたもんだな…」
 「ガイ、どうしてですの?何故、こんな…」
 「…ルークを、こんな世界から解放してやりたいだけさ…例え、この手で殺してでも…今のこの世界を、滅ぼしてでもな…」

 喉の奥で低く笑った後、彼は冴え冴えと蒼く光る刀身の宝刀を、見せ付けるように緩く構える。

 「俺の邪魔をするなら…手加減はしてやれないぜ?」
 「ガイ…おかしーよ!!ルークの気持ち、全然考えてないじゃん!」
 「そうですわ!あなたのその行動で、ルークがどれだけ哀しむと思っていますの?!」

 少女達の訴えにも、ガイはただ冷たく微笑んで見せるだけ。

 「君達には、そんな事言われたくないな…自覚があったのかなかったのかは知らないが、ルークを傷つけて平然としていただろう?」
 「だからと言って、貴方が彼を傷付けていいと言う事にはなりませんよ、ガイ。それは、貴方のエゴでしょう」

 ジェイドの言葉に、彼が何かを答えようとしたその時、不意に誰かが駆け込んでくる音がした。

 「?!こんな所で何してやがる!…レプリカはどうした!!」
 「あいつは、俺達を置いて、勝手に突っ走って行っちまったんだよ…かろうじて、傍に居たティアだけが昇降機に乗れたんだがな。俺達もやっと追いついた所だが、このままじゃあいつが…」

 それだけ聞いて、アッシュは駆け込んできた勢いのままに、丁度降りてきた昇降機に飛び乗り、一人上階へと向かってしまった。

 「ガイ、あなた…アッシュをけしかけましたわね…?!」

 ナタリアの泣きそうな声にも、ガイはただ薄く笑ってみせる。

 「…世界なんかの為に、ルークを死なせてたまるか…。アッシュが向かえば、あいつが死ぬ確率が下がる…俺が行けないなら、せめてそれぐらいしか出来る事はないからな…。誰にもやらない…あいつが死ぬ時は…俺の手にかかる時だ…」

 喉の奥でくつくつと笑い、そんな事を言う彼は、とても正気だとは思えなかった。

 「そんな…変だよ…っ!ルークが好きなら…そんな事言わないでよ!!ガイ、あんた狂ってるよ!!」
 「ああ…そうかもな。けどな、俺はまともな頭であいつを世界に捧げる位なら…喜んで狂ってやるさ」

 ガイがそう言った時、塔の上方から何か凄まじい力が放たれ、塔全体を振るわせる。ハッとしてその場にいた全員が外へ飛び出し、空を見上げる。天を覆っていた障気が、塔を中心として拭うように消えていき、青空の領域がどんどん増えていく。

 「……私達も、上へ向かいましょう」
 「え、でも…大佐…」

 アニスが、ナタリアが、目線で『彼』をどうするのか、と問い掛ける。彼の先程までの言動を聞いていれば、どうしていいのか戸惑うのも当然だろう。

 「…行ったらどうだ…?」

 そう言ったのは、意外にもガイ本人だった。

 「…あなたは、どうするつもりですの…?」
 「さて、な…ルークの居る所に、また現れるさ」
 「でも…もしも、ルークが…」

 障気を中和して、消えてしまっていたら…さすがにそこまでは言えず、口ごもったアニスに彼はにっこりと微笑む。…どこか鬼気迫る、鮮やかで狂気じみた笑みで。

 「ルークは、死んでいないさ。俺がまだ、こうして生きているのに…あいつがあっさり消えてしまう訳、ないだろう?あいつは、生きているさ…」

 俺に、殺される為に。

 そうはっきり言い切った彼に、ぞくりと少女達が身を震わせる。そんな彼女達を見かねたのか…それとも、ジェイドなりにガイの変わりように何かを感じたのか、塔の方へと顔を向ける。

 「…行きましょう。今はともかく、現状を確認するのが先です…」
 「……俺の事は、放置しといていいのかい?」

 …そう、放置しておけば、後に大きな禍根を残す事になるだろう。理由や目的はどうあれ、敵に強力な…最悪、切り札を与える事にもなりかねない。
 けれど、現状がわからない以上、ルーク達を放っておく訳にもいかない、というのも確かなのだ。

 「心配せずとも、次に会った時には、敵として手加減なしで引導を渡して差し上げます」
 「…冗談。俺を殺していいのは、ルークだけだ。俺が殺したいのも、俺を殺せるのも…ルークだけだ…。他のヤツに殺されてやる気は、生憎とないんでね」

 愉しげに笑うガイに、今度こそ背を向け、ジェイドは少女達を先に、その背後を守るようにして塔へと向かう。それを見送った後、ガイは澄んだ蒼穹にそれと同じ色の瞳を向け、これ以上にない程、甘い声と微笑みで、彼の愛しい聖なる焔の光を想う。

 「…ルーク…」

 愛を囁くように呟かれた声は、地を渡る風に流され、愛し子に届く事はなかった。


* * *


 アッシュに助けられ、何とか障気の中和を成功し、自分の音素に紛れ込んでいたローレライの宝珠も見つける事が出来た。消えると思われた身体も残り、表面的にはおおむね良い事づくめに見えるだろう。けれど…

 「…ガイ…」

 どうして…そう心に呟きながら、自分の手を見つめ、ぎゅっ…と痛い位に握り締める。今は感覚のあるこの手も、あの時…消えかけていたのを、自分は知っている。そして、そんな時に傍に居て欲しい『彼』は…。

 「……何かの、間違い、だよな……?」

 裏切っただなんて、信じられなった。今までずっと、騙していたなんて…例え昔はそうだったとしても、そうだとは思えなかった。
 …なぁ、ガイ…違うよな?俺が何かやったって言うなら、聞かせてくれよ…何度だって謝るし、何だってするから…。どうして、今傍に居てくれないんだよ…なぁ。俺の手、消えかけてたんだ…多分、俺…きっと…。そこまで心に呟きかけて、怖くなって止める。

 「…俺が守りたかった空は…お前が生きて、笑っていられる世界の空だったんだぜ?ガイ」

 心が鋭い刃物で貫かれたように、じくじくと見えない血を流す。痛みで息が止まって、死んでしまいそうだった。障気を中和したあの時、あれほど怖くて、死にたくないと思ったのに…今は苦しみの余り、いっそあのまま消えてしまいたかったと思ってしまう。

 「もう一度会って、話を聞きたい」

 本当に、もう戻れないのか。あれは本心からの言葉だったのか…ちゃんと話がしたかった。皆にはきっと、反対されてしまうだろうけど。それでも、このままなんて嫌だった。

 「俺は、信じるって…信じてくれって言ったんだ…」

 だから、裏切ったなんて思わない。そう心に決めて、ふとアルビオールの窓から見える瘴気の消えた空を見つめる。

 「……ガイ」

 もしも…彼が、敵となったとしたら…自分は、戦えるのだろうか?剣を取り、彼と本気で戦うのか。考えるだけで、身体が震えそうになる。師と戦うのも辛い…けれど、ガイと戦うなんて…生まれてからずっと、傍らに在った人と、剣を交えるなんて…どうしても、考えられなかった。

 「……やめよう、今は……」

 そんな事、考えたくもない。心も身体も、酷く疲れていて…動きたくもなかった。いつもなら真っ先に心配してくれるだろう存在が隣にいない。まるで、幼い頃の悪夢のようだ。

 「本当に…悪い夢なら、良かったのにな…」

 それなら、どんなに怖い夢だったとしても、目を覚ませばきっと、心配そうに自分を覗き込む蒼穹の瞳が、抱き締めて安心させてくれる人が、そこに居てくれるのに。

 「ガイ…何でだよ…」

 空を見つめ、ただ一人を想いながら、ルークはそっと目を伏せた。澄んだ色へと戻った空はどこまでも遠く…まるで傍らから去った彼のように、手を伸ばしても届きはしなかった。



聖なる焔の守り手は 愛するが故に狂い堕ちる
手にするは 狂気の刃 沈むは愛情の 深い闇

光に焦がれ 燃え尽くす 愛憎の昏き炎は
聖なる焔を 哀しき深淵へと 追い落とす…



― 二章に続く ―

 ついにやっちまった、六神将な狂ったガイと消えかけた聖なる焔のお話です。えーっと、とにかく暗い話になりそうな感じな上に、今考えてるのだと、死にネタにしかならない予感です。しかも、ガイが黒いというか、痛いというか、鬼畜っぽいというか、そんな感じみたいです。愛の余り、狂ってしまった彼が選んだのは、こういう道でした、というどん底な話です。正直、こんなん読む人がいるのか、と思いつつ。

 それにしても、予定では障気中和後にこうなる予定だったんですが、何か初っ端からこんなんでどうしような感じです。次は一応、ベルケンドでの精密検査後になると思います。この流れで、最後まで…つ、ついてこれる人はいらっしゃるのかしら。

 何でもいいけど、ガイとルーク以外の会話が、馴染んでないので上手くいってるやらどうなのやら。ジェイドとか、難しいですね…頭のいい人は、難しい…。



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