行こう 向かうは決戦の場
消え逝くこの手で 切っ先を向けよう

戻る事が出来ないのなら どんな道でも
戻れなくなってしまった お前を止めるために

胸に響くのは 誰かの
俺の嘆きの声



― 五章・鎮魂歌 ―



 対空砲火をかいくぐり、何とかエルドラントへの突入を果たす。先に突入し、その際に負傷したらしい、アルビオール三号機の操縦士ギンジを、彼の妹であるノエルに任せ、ルークたちは内部へと進んで行く。
 そうして彼らの前に立ち塞がったのは、リグレットだった。ローレライの宝珠を奪いに来た彼女と話し合いになる訳もなく、戦いとなり…そうして彼女にとどめをさしたのは、ティアの譜術だった。尊敬していた教官を手にかけ、その最期を見つめ…それでも、沈んだティアの瞳に涙が浮かぶ事はなかった。まるで、軍人としての己を保つ事こそが、リグレットへの手向けであるかのように。

 「……ティア、その…大丈夫か…?」
 「あなたこそ……大丈夫なの?」
 「え……」
 「覚悟は、出来ているのね?」

 大切な人を、自分の手にかける覚悟を、彼女は強い瞳で問いかけてきた。その瞳を真っ直ぐ見返し、ルークは頷く。彼女が、大切な人たちを殺す覚悟を決めたように…ルークもまた、そうする事を決めていた。

 「そう…けれど、あまり戦いだけに気を取られないで?ここは、相手の本拠地…何が起きるか、わからないのだから」
 「あ、ああ。気を付ける、ありがとう」

 しかし、結局はこの忠告をいかす事は出来なかった。先に待つだろう戦いに気を取られていたルークは、仕掛けられていた落とし穴の罠にはまり、一人仲間たちから分断されてしまったのだから。……まさか、自分の被験者であるアッシュが、同じ罠にはまり、そこにいるとは思いもよらなかったが。
 こんな所まで、同位体である証明をしなくても…ルークはつい、そう心の中で思ったが、そんな事を考えている場合ではなかった。アッシュによれば、この罠から外に出て先に進めるのは、一人…片方は、ここに残り、扉を開く仕掛けを作動させなければならないという。それなら、と迷う事なくルークは、自分の持っていた宝珠をアッシュに差し出すが、彼はそれを一瞥し、ついでルークを睨みつけた。

 「……何の真似だ」
 「どちらか一人しか出られないなら、お前が行くべきだ。ローレライの鍵で、ローレライを解放して……」
 「いい加減にしろ!お前は…俺を馬鹿にしてやがるのか…!」
 「そうじゃない!俺はレプリカで、超振動ではお前に劣る。それは事実だ。それに……」

 ほんの一瞬、ルークは言いよどんだが、迷いを振り払うように、そのまま言葉にする。

 「俺は、もうすぐ消える」
 「なっ?!」
 「…消えるんだ、レムの塔で消えた、レプリカたちみたく。もし仮に先へ進んでも、どこまで俺の身体がもつか、わからないんだ。…そりゃ、出来れば最期までやり遂げたい。ケド…」
 「一体、何を言ってやがる?!」
 「障気を中和したあの時から、俺の身体は音素乖離を引き起こしてる。多分…ギリギリ、ローレライ解放までもつかもたないかくらいだと思う…」

 信じられない、という顔をしているアッシュに、気を抜くたび消えかける腕を見せる。

 「どんどん、乖離してるらしい…最近では、よくこうなるんだ。そのうち、全身がこうなって…。だから…」
 「勝手な事ばかり言いやがって……っ!」
 「うん、勝手だな…ごめん。だけど、俺が残った方がいいと思う。そうすれば、ガイはきっとみんなを傷つけないし、ここを開く方法も知ってるから…俺もあいつと決着をつけられる」
 「お前は…!ヴァンを倒し、ローレライを解放するより、ヤツとの決着を優先する気か!」

 間合いを詰め、アッシュが剣を突き出してくる。それを何とか避けながら、ルークはとっさに剣を抜き、叫ぶ。

 「アッシュ!」
 「俺に始末をつけさせて、てめぇはガイと決着をつけ、満足して消えるつもりか!!」

 振るわれる剣を何とか受け流し、地を蹴って間合いを取る。

 「俺だって、出来るなら最後まで、ちゃんと終わらせたい!けど…思ったより、時間がないんだ!もう、いつ消えてもおかしくない!」
 「うるせぇ!俺だってねぇんだ…お前まで消えたら…」
 「え?それは、一体……」

 問いかけても、答えは返らず、再び近づいた剣が振り下ろされ、受け止めた刃が音を立てる。同じ力だとしても、下から受け止めたルークの方が僅かに不利だ。

 「アッシュ…頼むっ…!大事なのは、師匠を止めて、ローレライを解放する事だって、わかってるんだ!だけど、俺は……っっ!!」
 「…お前にとって、それ以上に大切な事だ、というのか…?」
 「ああ。アッシュにとって、ナタリアが大事なように…俺は、ガイが大事なんだ。だから、アイツを…俺が、止めてやんないといけないんだ」

 不意に押されていた力がなくなり、アッシュが剣をひく。その様子に、思わずきょとんとしながら彼を見たルークの目の前に、溜息と共に彼の手が差し出された。

 「…アッシュ…?」
 「……宝珠をよこせ」
 「っ!アッシュ……」
 「勘違いするな。俺は……俺のこの手で、守りに行くだけだ。お前は、お前の好きにすればいい」

 多少素直ではない物言いだが、差し出された手に宝珠を渡して礼を言おうとした……その時、彼らが開けようとしていた扉とは別の場所が開き、そこから神託の盾の兵士たちがなだれ込んできた。

 「!!敵だ!ここは俺が…アッシュは早く…!」

 仕掛け扉を開きながら、ルークはアッシュを振り返る。

 「みんなを、頼んだ」
 「チッ…仲間を気にする位なら、さっさとあいつらとガイを倒して、追いついて来い!いいな!!」

 そんな言葉を残して、アッシュが扉を抜けたのを見計らい、ルークは彼の姿が消えた扉を閉じ、次々となだれ込んでくる神託の盾兵士……恐らく、自分と同じレプリカなのだろう者たちの前へと立ち塞がり、剣を構える。

 「そこをどけ」
 「そういう訳にいかない。悪いけど、アッシュやみんなの所へ行かせる訳にいかないんだ。お前たちこそ、邪魔しないでくれ」

 それに対する返答は、剣を抜く音。

 「…やっぱり、戦うしかない、か…」

 我ながら情けないとは思うけれど、出来れば人を…同じレプリカを、殺さないですむなら、その方が良かった。だが、やはりそうはいかない。

 「ここを通りたきゃ…俺が相手になるぜ…。かかってきやがれ!」

 そう、先に行っただろうアッシュの、みんなの所へは行かせない。足を止めさせてはならない。それに、兵士たちが入って来た扉から出られれば、きっと自分も進む事が出来る。かかってくる者たちを薙ぎ払いながら、もしも生きていられれば、だけど。と心に呟きかけ、それを否定する。違う、なんとしてでも、ここを生き延びなければ。

 「俺は、決着をつけなきゃなんないんだ!!俺の前から退けーっ!!」

 吠えるように叫んで、多勢に無勢の状況に光を求めるように、ルークはただ、剣を振るった。ただ、ここを生きて出るために。



 その頃、扉を出たアッシュは、ルークを待っていただろう仲間たちと合流を果たしていた。

 「アッシュ!!」

 真っ先に駆け寄ってきたナタリア、それに続くように駆け寄ってきた者たちを見回し、彼は口を開く。

 「レプリカに会った」
 「ルークは?彼は無事なの?!」
 「……ヤツは、敵を食い止めている。俺は、ヤツから宝珠を受け取ってきた」

 そう言い、取り出した宝珠は剣と反応し合い、引き合うようにアッシュの手の中で一つとなり、ローレライの鍵となった。それを見つめながら、ティアが小さく祈るように、ルーク、と呟いた。

 「…では…ルークの行動を無駄にしないためにも、私達は先に進みましょう」
 「助けには行きませんの?!」
 「…一人で、大丈夫なのかな…だって、ルークは今……」

 一人残して行くなど信じられない、という表情のナタリアと、助けに行ったら彼の気持ちが無駄になると知りつつ、納得しきれないアニスが声を上げる。

 「ルークがアッシュに宝珠を託し、それを彼も受け取った…なら、私達は、先に進まなければならないわ。きっと、そうする事が、彼の…望みの筈だもの…」

 辛そうな表情をしながらも、冷静さを保とうとするティアの言葉に、哀しい沈黙がおりた。その時……

 「さっさと先へ行け。あいつの気持ちを無駄にするつもりか?」

 静かに響いた声は、今は敵となったはずの者の声。

 「ガイ?!」
 「この先の広場…レプリカホドの街の広場にあたる場所には、シンクがいるはずだ…。ヴァンと戦う前に、ヤツに殺られないように、気を付けるんだな」
 「…それが本当だという保証は…?」
 「ないな。一応、仲間だった俺からの、最後の忠告ってヤツさ。信じる信じないは、好きにすればいい。お前らと戦う気も、意味も、俺にはないからな。さっさと行け」

 言うだけ言って、ガイは話はそれだけというように背を向ける。

 「待って!ルークの所へ行くつもり?!」

 その背に、いつの間にかナイフを構えたティアの声がかかる。今、ルークは敵と戦っているはずだ…そこにガイが行けば、余計彼の不利になる、と考えての行動だった。

 「…邪魔しないでくれ…ルークを、助けたいのなら」

 振り返ったガイの瞳は、真っ直ぐな蒼。…とても、狂った男の瞳とは思えない、穏やかでひたむきなそれは、ルークと共にあった頃の彼が、大切な愛し子を守る時に浮かべていた光。

 「あいつは、誰にも殺させやしない」

 誓うように呟かれた言葉に宿る、何かの決意。まるで、消える事を受け止めたルークのような、強い想いを浮かべた表情に、何も言えずにいる間に、ガイは今度こそ背を向け、立ち去った。

 「……行かせても、よかったのかしら」
 「少なくとも、彼を止めようとすれば、こちらにも被害が出る事は確実です。彼の目的はルークですから。どうやら、今のガイは一応正気のようですし、ルークと戦うとしても、性格的に一騎討ちを望むでしょうから、彼が駆けつけたとして、ひとまずは残った敵を片付けてくれるでしょう」
 「…俺達の目的は、ヴァンを倒し、ローレライを解放する事だ。ヤツがレプリカの所へ向かったなら、少なくともレプリカが雑魚に殺られる事にはならんだろう」
 「一応、ガイの言っていたシンクについての情報も、頭に入れておきましょう。先程の罠の事もある。この先にも何か仕掛けられている可能性も捨てきれません」

 そう注意を促したジェイドに、皆は頷く。

 「……行くぞ」

 先に歩き出したアッシュに続いて、他の者も歩き出す。…一人残され、今も戦っているだろうルークの事を案じながら、誰もそれ以上は言えないままで…。





 どれくらいの人間を…レプリカを、斬っただろうか。数十、それとも数百か。どれだけの罪に、この手は染まるんだろう。疲労と痛み、血の臭い…死体は消えても、残る死臭で意識が遠のく。消えない紅が残る手で、さらに剣を振るう。
 飛び散る紅と肉や骨を斬る感触に、与える命の終わりに、こみあげそうになる吐き気を堪えながら…断末魔やあがる悲鳴に、恐怖と謝罪を心の内に繰り返しながら…それでもルークは、先に行った仲間たちの背後を守るためにも、自分の道を拓くためにも、戦い続けた。

 「あと、少し……」

 呟いたその時、疲労のせいか…それとも、身体自体の限界が近いせいなのか…不意に、目の前の世界が揺らいだ。空気に溶け込みそうな意識と、力を失い倒れかけた身体を何とか保たせたが、その隙を敵が見逃すはずもなかった。

 「…っく…」

 目の前に迫る刃を何とか剣で受け止めたが、周りを敵に囲まれた今の状態でそれは、他の攻撃を防ぐ術がないのと同じだった。横合いから敵が迫るのを感じ、目の前の相手を蹴り飛ばし、左から来た者を力技で斬り捨てる。しかし、続く攻撃を防ぐには、体勢を崩しすぎている。…ここまでか…そう思ったルークの目の前で、急に敵が叫びを上げて倒れた。

 「…え…?」
 「言ったはずだろう、ルーク…他の奴らに殺されるな、と…」

 屠った者には見向きもせず、厳しい表情でそう言ったのは、敵であるはずの男。

 「……が、い?」
 「お前の命は、俺のモノだ。こんな所で、こんな奴らに殺されるなど、許さない」

 強く言い放った後、ガイは気が抜けたままのルークを見つめ、僅かに表情を緩める。

 「…よく、一人で頑張ったな…ルーク」
 「っっ!!」

 その言葉に驚いて、泣きそうな表情になったルークに背中を向け、一転して冷たい瞳で周囲の者を睨みつけながら、ガイはその蒼い刀を構える。……その背に、愛し子を守るように。

 「ガイ……?」
 「……。少し、休んでいろ。そんな状態では、俺と戦う前にへばっちまうだろう。ここは、俺が片付ける」
 「…ごめん…」

 背に庇ったまま、ちらりと後ろの様子を見れば、本当に限界まで疲れきり、がくりと膝をついたルークが見えた。本当に、よく生きていてくれたものだ、と心の中でホッとする。彼の疲れ方からいって、相当な数を相手に、一人で戦っていたのだろう。間に合ってよかった、と思いながらも、自分の行動の矛盾にガイは自嘲する。助けたいのか、殺したいのか、もうわからない…わかるのはひたすらに胸にある愛しさ…ただそれだけ。

 「裏切る気か」

 そんな声が、目の前の者たちから聞こえた。裏切る?違うな。最初から、ヴァンも六神将も、敵も味方も、被験者もレプリカも、世界すら…自分にはどうでもよくなっていただけだ…。きっと、ルークが死なずにすむ道があるのなら、光があり続けるのなら、こんな道など選ばなかっただろう。それほどに…ガイには、いつの間にかルークしかなくなっていただけだ。

 「さあな。だが、ルークの命は俺だけのモノだ…お前らなどに、殺らせはしない…!!」

 後ろには守るべき愛し子である、最愛の主人。久し振りのその昂揚感に、彼の口元は自然と笑みを浮かべる。主を傷付けようとする者たちを、容赦も慈悲もなく次々に斬り捨てていく。同時に、こうしてこの子を守って、共に生きていたかったと、心が叫ぶ。それを『敵』にぶつけるように、さらに剣技が冴えていく。
 そうして、気付けば『敵』として立ち塞がる者の姿はなく、そこには彼ら二人だけが残っていた。

 「…あの…ガ、ガイ……」

 念の為辺りを見回し、気配を探り、本当に他にいない事を確かめた上で、剣を振って血をはらい、宝刀を鞘におさめる。と、おずおずして戸惑う声で、ルークが彼の背中に声をかけた。

 「……怪我は?」
 「へ?あ、いや、別に大した事は…多分…。あっても、かすり傷程度だし」
 「…そうか…。ルーク、ちょっと来い」

 ガイはそう言いながら、黒衣に合わせたその黒い手袋を外し、何かを取り出すとルークを手招く。子供は怪訝そうな表情ながら、長年呼ばれ慣れた声に、警戒もなく近づく。

 「何?…ぅぐ?!」

 手の届く範囲まで近づいた途端に、彼が取り出した何かを口に押し込まれ、そのまま手で塞がれ、ルークは目を白黒させる。口に広がるのは、レモンの味……どうやら、レモングミだったようだ。飲み込んだのを確認し、ようやく手を離される。

 「回復くらい、ちゃんとしとけ」
 「あ、アイテム使うヒマもなかったんだよ!つか、いきなり人の口ん中押し込むんじゃねぇ!!」

 思わず文句を言った後、ガイを見つめて、彼は複雑そうな表情で口を開く。

 「…なぁ、ガイ…どうして、助けてくれたんだ……?助けてくれたのに…戦わなきゃなんないのかよ…?」
 「言っただろう。お前がいない世界で、俺は生きるつもりはない……」
 「…だからって…っっ!」
 「行くぞ」

 何かを言おうとしたルークの腕を引き、歩き出そうとするガイに、慌てたような声がかかる。

 「い、行くって?」
 「この場所で戦いたいなら別だが?」

 ガイの言葉に、ルークは慌てて首を振る。たしかに…出来れば、沢山の者を殺したこの場所は、空気も気分的にも、ツラい。…それに、少なくともここで戦うよりは…彼と共に行けるだろう。

 「なら、行くぞ」
 「あ、あぁ……」

 向けられた背中に、引かれる腕に、ルークはどうしていいかわからないながら、ついて行く。まるで、あの月の夜のような…幼い頃のような…。違うのは、向かう先には、彼との戦いが待っていて……どちらかの命が、終わるのだという事。
 二人は、歩きながらもただ無言だった。彼らの他に動く者はなく、静寂の中ひたすらに歩を進めていく。道はルークの知らない道だった。一体、どこに行くんだろう…着けば戦うのだとわかっていても、知らない場所をただ導かれて行くのは、何となく不安になる。

 「……不安か?」

 それを見通したように振り返り、静寂を破ってガイが問いかけてきた。

 「…ん、まぁ…そりゃ……」
 「罠でもあると思うか?」
 「は?んなモン、お前は仕掛けないだろ?全力で戦おうって時に」

 あっさりと、迷いなく返された言葉に、ガイの方が一瞬目を瞠り、苦笑する。

 「…信用しすぎだ…」
 「え??」

 不思議そうな子供に何でもないと返し、再び歩き出す。何度傷付いても…傷付けても、ルークは哀しげに…それでも真っ直ぐな瞳を向けてくる。…その瞳が、裏切ったガイさえも、変わる事なく見つめてくれたから…きっと、狂気に染まりきらずにすんだ。今も昔も、その名の通りの光で、闇を彷徨う心を照らしてくれた。
 だからこそ、それを喪っては生きられない。そうして、優しい子供に残酷な戦いを強いる自分に、自嘲の笑みを浮かべながらも、ガイはもう立ち止まる事は出来なかった。ルークは、消える。たとえ音素乖離しなかったとしても、いずれ大爆発と呼ばれる現象により、被験者と同化して……。彼の乖離を止められないかと、六神将となってからレプリカ施設で調べたガイに与えられたのは、そんな哀しい未来を示唆するものだった。
 同時に、生き急ぐようなアッシュの行動の理由も、大爆発前に起こる現象のせいだろうと理解していた。お笑い種だ、全てを奪ったと憎んできたルークから、今度は彼が全てを…命や記憶すらも、奪うのだというのに。

 「…なぁ、ガイ…どこまで行くんだ?」

 ルークの声に思考を中断し、振り返る。

 「もう少しだ」
 「…もう少し…」

 向かう先に、外の光。それを示してやると、ぴたりとルークの足が止まった。

 「……ルーク」

 軽く腕を引けば、彼は俯いたまま無言で首を振る。強張った身体が、この先には進みたくない、と拒絶する。

 「ルーク、行くぞ」

 まるで幼い頃のようだ、とどこかで思いながらもう一度呼べば、顔を上げた子供の瞳と視線が交わる。泣きそうになるのを堪えながら、それでもその真っ直ぐな瞳の強さは揺らがない。

 「…どうしても、ダメ、なんだな…?俺たち…戦うしか、ないんだな…」
 「ああ、そうだ。お前のいなくなる世界は…俺には、辛すぎる…。だから、終わらせるんだ」

 ルークは俯いて唇を噛み締めた後、顔を上げる。その瞳から完全に迷いは消え、哀しみに彩られながらも、表情は強い覚悟に満ちていた。

 「……わかった」

 歩き出したルークを先導し、ガイもまた歩き出す。二人で過ごす、最後の時を胸に刻むように、ただ静かに。

 ――そして、時は止まる事なく、終曲へと向かう……。



行こう 哀しき戦いの地へ
消え逝くお前と 殺し合うために

戻る事など出来ないから 共に逝こう
光を世界に奪われる 俺をどうか 消してくれ

響くのは 犠牲を弔う世界が歌う
 鎮魂歌


 六神将なガイルクそのごです。というか、長くなりそうなので、何だか半端な所で切りました。むしろここで切るしかなかった…(汗)にしても、戦闘描写が甘いというか、へぼいというか…最近すっかり戦闘描写から離れてたから、ちょい自分では微妙な所なのです。最後こそはちゃんと頑張りたい所。

 とりあえず、アッシュは死なない方向で落ち着きました。多少アシュナタっぽくなってすいませんです。ヴァン師匠はアッシュが倒すという、裏ルートです、げふごふ。シンクの罠にもきっとはまりません。きっとルークがガイと戦う頃には、シンクを倒して先に進んでます。何というご都合。

 最早自己満足で、時間がかかりつつも書いてますが、もし読んでくださってる方がいましたら、あと少しのこの話、最後までお付き合いくださればな、と思います。



←戻る

←四章へ

六章へ→